
災害時にも強い警備機器の選び方:防犯カメラ・入退室管理・通報の“止まらない”仕組み
地震・台風・豪雨・停電などの災害時は、建物や設備がダメージを受けるだけでなく、人の出入りや資産の管理が不安定になりやすいタイミングでもあります。避難や臨時休業で人手が減ると、盗難・侵入・情報持ち出しなどのリスクが上がるケースもあります。
そこで重要になるのが、災害時にも止まりにくい「警備機器」の設計です。具体的には、防犯カメラ、録画装置、ネットワーク、電源、入退室管理、通報手段を一つのシステムとして考えることがポイントです。
本記事では「災害時にも強い警備機器」をテーマに、現場で失敗しがちな落とし穴と、導入前に確認すべき要件をわかりやすく整理します。
目次
1. 災害時に警備機器が弱くなる典型パターン
1-1. 停電で「撮れていない」「記録が消えた」
災害時のトラブルで多いのが、停電によって防犯カメラや録画装置が停止し、肝心な時間帯の記録が残っていないケースです。復電の瞬間に機器が不安定になり、設定が崩れることもあります。
1-2. 通信断で「遠隔で見られない」「通知が来ない」
インターネット回線やルーターが停止すると、クラウド録画やスマホ通知、遠隔監視が使えなくなります。通信断は「映像は撮れているのに現場確認ができない」という状況を生みやすいので注意が必要です。
1-3. 人の動きが変わり、出入り・持ち出しが増える
避難、復旧工事、業者の出入り、臨時の鍵貸し出しなどで、平時より人の動きが複雑になります。入退室管理のログ(履歴)が残らない運用だと、後からの確認が難しくなります。
- 「誰がいつ入ったか」が曖昧になる
- 鍵の受け渡しが増え、紛失・複製リスクが上がる
- 一時的な立ち入りを許可した範囲が固定化してしまう
2. 止まらない仕組みの基本:電源・通信・録画の三点セット
2-1. 電源:UPS(無停電電源装置)とPoEの組み合わせ
災害時にも強い警備機器を作るうえで、まず押さえたいのが電源です。UPS(無停電電源装置)は、停電時にバッテリーで給電し、一定時間システムを動かします。防犯カメラや録画機器、ルーターなど、最低限動かす機器を絞ってUPSに載せると現実的です。
- 録画装置(NVR/DVR)+ルーター+PoEスイッチをUPSに接続する
- カメラはPoE(LANケーブルで電源供給)にすると配線が整理しやすい
- 「何分動けば十分か」を決めて容量を選ぶ(例:30分〜2時間)
2-2. 通信:有線断に備えたバックアップ回線
遠隔監視や通知を重視するなら、固定回線が落ちた場合のバックアップが有効です。代表的にはモバイル回線(LTE/5G)を使った予備ルーターや、フェイルオーバー(自動切替)対応の機器があります。
2-3. 録画:ローカル+クラウドの“二重化”が強い
録画の考え方は「どこに、どう残すか」です。ローカル(社内の録画機)だけだと、設備故障や浸水で失われる可能性があります。クラウド録画も、通信断が長いとアップロードが止まります。現実解としては、ローカル録画+(可能なら)クラウド連携で二重化する設計が強いです。
| 対策要素 | 目的 | 具体例 | チェック |
|---|---|---|---|
| 電源 | 停電時も稼働 | UPS、PoE、冗長電源 | □ |
| 通信 | 遠隔監視・通知を維持 | LTE/5Gバックアップ、回線自動切替 | □ |
| 録画 | 証拠の保全 | ローカル録画+クラウド連携、二重保存 | □ |
| 運用 | 混乱時もルール維持 | 非常時の権限・鍵管理、代替手順 | □ |
3. 防犯カメラを災害に強くする選定ポイント
3-1. 耐候性(IP等級)と設置環境の見立て
屋外や半屋外の防犯カメラは、雨風・粉じん・塩害などの影響を受けます。カメラの保護性能は「IP等級」で示され、数字が大きいほど防塵・防水性能が高い傾向です。災害時は風雨が強くなるため、平時より厳しめの環境で想定して選ぶと安心です。
3-2. 暗所・停電復旧後でも“見える”性能
夜間や照明が落ちた状況でも録画できるかは重要です。赤外線(IR)や低照度対応(暗い場所でも映るセンサー)など、暗所性能を確認しましょう。停電復旧後に自動復帰するか、時刻ずれが起きないかも実務上のポイントです。
3-3. 重要箇所は「画角」と「死角対策」を優先
災害時に優先して守りたい場所は、出入口、金庫・レジ周り、倉庫、サーバールーム、受電設備周辺などです。カメラ台数を増やす前に、狙うべき画角(写る範囲)を明確にするとムダが減ります。
- 出入口:顔・服装・持ち物が分かる位置に設置
- 資産保管:手元の動きが分かる角度を意識
- 駐車場:車両ナンバーを狙うなら照明と角度が重要
| 用途 | 推奨機能 | 注意点 | チェック |
|---|---|---|---|
| 出入口監視 | 広角+人物検知、逆光補正 | 逆光で顔が潰れないか | □ |
| 夜間監視 | 赤外線、低照度対応 | IRの照射距離を確認 | □ |
| 屋外設置 | 高い耐候性、耐腐食 | 塩害地域は素材も要確認 | □ |
| 証拠性重視 | 高解像度、改ざん検知 | 保存期間とバックアップ設計 | □ |
4. 入退室管理・鍵の運用を“非常時仕様”にする
4-1. 物理鍵だけに頼らない:権限とログ(履歴)
入退室管理は、カードや暗証番号、スマホなどで扉の解錠を管理し、誰がいつ出入りしたかを記録できます。災害時の混乱下でも、ログが残ること自体が抑止力になります。
4-2. 非常時の「一時権限」を設計する
復旧工事業者や点検員など、普段は入れない人が一時的に入る場面があります。その際は、期限付き・時間帯限定などの一時権限で対応し、作業終了後に権限を必ず回収する運用が安全です。
4-3. 電気錠・解錠の安全設計(フェイルセーフ/フェイルセキュア)
電気錠は停電時の挙動を決める設計が重要です。一般的に「フェイルセーフ」は停電で解錠側、「フェイルセキュア」は停電で施錠側になります。用途によって最適が変わるため、避難導線や消防設備との整合も含め、最終判断は専門家に相談するのが安心です。
5. 現場で効く:通報・遠隔監視・連絡網の作り方
5-1. 通報は“複数経路”が基本
災害時にも強い警備機器を目指すなら、通報の経路を一つにしないことが重要です。ネット通知だけ、電話だけに偏ると、回線障害で詰みます。
- スマホ通知(アプリ)+メール通知
- 監視センターへの通報(契約型)+社内連絡網
- 可能ならモバイル回線経由のバックアップ
5-2. 遠隔監視は「見える」だけでなく「確認手順」まで
遠隔で映像が見られても、誰がいつ確認し、何をしたかが曖昧だと機能しません。災害時は担当者が不在になることもあるため、代替要員や当番制、緊急連絡先の更新など、運用をセットで作っておきましょう。
5-3. 映像の取り出し手順を平時に練習する
録画が残っていても、取り出せなければ意味がありません。復旧工事の出入り確認や被害状況の整理に、映像が必要になることがあります。管理画面のログイン情報、バックアップの場所、ダウンロード方法などは、平時に一度確認しておくと安心です。
6. 設置場所・配線・耐候性:物理面のチェック
6-1. 浸水・風害を想定した機器配置
録画装置やルーター、PoEスイッチなどの中枢機器は、浸水しやすい床近くに置かないのが基本です。ラックや棚で高さを確保し、配線も水が伝いやすい位置を避けると被害を減らせます。
6-2. ケーブル断線・抜けを防ぐ施工
地震の揺れや復旧作業でケーブルが引っ張られ、抜けたり断線したりすることがあります。屋外配線は保護管を使い、屋内もケーブルの固定や余長(たるみ)を確保するなど、施工品質が信頼性に直結します。
6-3. 重要機器は温度・湿度にも注意
真夏の高温や停電時の換気停止で、録画装置が熱暴走することがあります。設置場所の通気や空調停止時のリスクも含め、機器の動作温度範囲を確認しておくと安心です。
7. 導入前チェックリストと要件定義のコツ
7-1. 「守りたいもの」と「止めたくない機能」を決める
災害時にも強い警備機器は、すべてを完璧にしようとするとコストが膨らみます。まずは、守りたい資産(現金・在庫・機密情報・設備)と、止めたくない機能(録画・通知・入退室ログなど)を整理しましょう。
7-2. 優先順位の付け方:入口・録画・電源から
予算が限られる場合は、(1)重要な出入口の防犯カメラ、(2)確実な録画、(3)停電対策(UPS)の順に手を付けると効果が出やすいです。そこから通信バックアップやクラウド連携、入退室管理の強化へ段階導入が現実的です。
7-3. 現場に合う運用ルールを同時に作る
警備機器は、設置した瞬間がゴールではありません。災害時の担当者不在、鍵の一時貸与、通知の見落としなど、運用が破綻しやすいポイントを先に潰しておくと、実効性が高まります。
| 項目 | 決めること | 目安 | チェック |
|---|---|---|---|
| 録画の保存 | 保存日数・解像度・バックアップ | 7〜30日+重要箇所は長め | □ |
| 停電対策 | UPSで動かす機器と稼働時間 | 30分〜2時間から検討 | □ |
| 遠隔監視 | 誰が見るか・通知先・当番 | 複数人+代替要員 | □ |
| 入退室管理 | 権限設計・一時権限・ログ確認 | 期限付き・時間帯限定 | □ |
| 施工 | 配線保護・機器の設置位置 | 浸水・風害・熱を想定 | □ |
8. 費用対効果と段階導入の考え方
8-1. 「止まる損失」を見える化する
災害時の警備は、盗難被害だけでなく、復旧工事の出入り管理、保険申請の資料、トラブルの原因究明など、幅広い場面で役立ちます。止まった場合の損失(営業停止、再手配、説明コスト)を見える化すると、投資判断がしやすくなります。
8-2. まずは中枢(録画・通信・電源)を固める
カメラ台数を増やす前に、録画装置、ルーター、PoEスイッチ、UPSといった中枢部分を堅牢にすると、全体の安定性が上がります。災害時にも強い警備機器は、派手な機能よりも「止まらない基盤」が重要です。
8-3. 更新時期を揃えて保守をラクにする
カメラ、録画装置、ネットワーク機器がバラバラに更新されると、障害切り分けや設定管理が難しくなります。導入時に保守契約や更新計画も含めて整理すると、長期的なコストを抑えられます。
9. よくある質問(Q&A)
Q1. 災害時にも強い警備機器を考えるとき、最優先は何ですか?
最優先は電源(停電対策)です。防犯カメラや録画装置が動かないと、映像もログも残りません。次に通信(遠隔監視・通知)と録画の二重化を検討すると、実務での安心感が高まります。
Q2. UPSはどの機器につければ効果的ですか?
基本は録画装置(NVR/DVR)、ルーター、PoEスイッチです。全機器に付けるより、重要機器を絞って稼働時間を確保するほうが現実的です。必要な稼働時間(例:30分〜2時間)を決めて容量を選ぶと失敗しにくいです。
Q3. クラウド録画だけにすると安心ですか?
クラウド録画は機器破損時の保全に強い一方、通信断が長いとアップロードが止まります。災害時にも強い警備機器にするなら、ローカル録画+クラウド連携のように二重化を検討すると安心です。
Q4. 入退室管理は小規模な店舗でも必要ですか?
小規模でも、臨時の出入りが増える災害時には有効です。特に「誰がいつ入ったか」を残せる点は、復旧工事やトラブル対応で役立ちます。まずはバックヤードや金庫周りなど、重要区画からの導入が現実的です。
Q5. 法律やプライバシー面で気をつけることはありますか?
防犯カメラの設置では、撮影範囲の配慮、掲示(撮影中の表示)、録画データの管理(閲覧権限・保存期間)などが一般的な注意点です。最終的な運用設計は、建物の用途や地域事情でも変わるため、必要に応じて専門家(顧問弁護士やセキュリティ事業者)に相談すると安心です。
この記事の制作者

粂井 友和
システム警備を提供して20年以上、お悩みを解決したお客様5,000件以上のSATで責任者を務めています。
防犯カメラや防犯センサーなどを活用した防犯システムを、様々な状況に適した形でご提案します。
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