帰宅困難者の施設内待機に備えて水・食料・毛布を準備する事務所

大規模な地震などで公共交通機関が止まったとき、従業員をすぐに帰宅させることが安全とは限りません。道路や駅へ人が一斉に集中すると、混乱に巻き込まれるだけでなく、救急・救助や消火活動の妨げになるおそれがあります。

内閣府が2026年1月に改定した事業所向けガイドラインでは、まず建物と周辺の安全を確認し、従業員や来所者を施設内または他の安全な場所に待機させる考え方が示されています。店舗・事務所では「帰らせるか」だけでなく、どこで待機するか、何を配るか、どう安否を確認するか、いつ分散して帰宅させるかまで決めておくことが重要です。

この記事では、施設内待機、3日分の備蓄、安否確認、来所者対応、分散帰宅、待機中の入退室・防犯設備まで、平時に整理しておきたい実務ポイントを解説します。

1. 帰宅困難者対策で最初に決めるのは「すぐ帰らない」判断

災害直後に一斉帰宅せず事務所内で待機する従業員

帰宅困難者対策は、食料や水を購入することだけではありません。最初に決めたいのは、災害発生直後に従業員が各自の判断で一斉に帰宅を始めないための方針です。

一斉帰宅を抑制する理由

公共交通機関が止まり、多くの人が徒歩で一斉に移動すると、道路や駅周辺の混雑が広がります。内閣府の事業所における帰宅困難者等対策ガイドラインでは、救急・救助、消火、緊急輸送などの応急活動を円滑に行うため、従業員等を施設内に待機させ、混乱収拾後も帰宅時間を分散させる考え方が示されています。

ただし、建物や周辺が危険な場合まで施設内に留まるという意味ではありません。まず安全を確認し、待機できなければ自治体等が案内する一時滞在施設や他の安全な場所へ移動します。

従業員だけでなく来所者も想定する

店舗・事務所では、正社員だけでなく、パート・アルバイト、派遣社員、取引先、来店客、配送業者などが発災時に建物内にいる可能性があります。誰を待機対象とするか、来所者をどこへ案内するか、テナントの場合はビル管理者とどのように役割分担するかを事前に整理します。

確認する状況 基本となる対応 平時に決めること
建物・周辺が安全 従業員・来所者を安全な区画で待機させる 待機場所、責任者、人数確認方法
建物内の安全を判断できない 施設管理者や専門家の確認を待つ 連絡先、立入禁止の判断者、集合場所
建物・周辺に明確な危険がある 行政情報や施設管理者の指示に従い安全な場所へ移動 避難先候補、誘導担当、人数確認方法
交通が回復し周辺の安全を確認できた 方面・時間を分けて帰宅させる 帰宅順、連絡班、帰宅完了の報告方法

2. 施設内待機の判断は建物・周辺の安全確認から

施設内待機の前に事務所の安全を点検する担当者

「帰宅させない」という方針があっても、損傷した建物に留まらせてはいけません。施設内待機を始める前に、建物、周辺火災、落下物、電気・ガス、避難経路などを確認します。安全を判断できない場合は、無理に点検せず、施設管理者や関係機関、建築・設備の専門家へ確認してください。

待機可能かを確認する主な項目

  • 建物の傾き、大きなひび、天井材や照明の落下がないか
  • 周辺で火災、浸水、土砂災害、危険物の漏えいが起きていないか
  • 非常口、階段、廊下、防火シャッターが使用できるか
  • 電気、ガス、上水道、トイレ、空調に異常がないか
  • 通信・電話、消防用設備、入退室・施錠管理が機能しているか
  • 余震や停電を想定しても待機場所を安全に維持できるか

内閣府ガイドラインの安全点検例には、通信・電話、消防用設備、入退室・施錠管理、セキュリティも含まれています。設備が止まっている場合は、復旧までの代替手段と立入り範囲を決めます。地震後の防犯カメラや警備設備の確認方法は、地震後に確認したい防犯設備7項目でも整理しています。

備蓄品を置く場所も安全確認の対象

備蓄品があっても、倒れた棚の奥にある、停電したエレベーターでしか運べない、避難通路を塞いでいる状態では使えません。高層階や広い施設では保管場所を分散し、各場所の担当者と開錠方法も決めておきます。スプリンクラーや感知器を妨げる場所、機械室や配管スペースなど、本来保管に適さない場所は避けてください。

3. 待機を支える備蓄は3日分を基準に人数と配布方法から設計する

事務所に整理して保管された3日分の水・食料・毛布

内閣府の事業所向けガイドラインでは、発災後72時間は人命救助に重要な期間であることから、施設内待機のための備蓄量を3日分とする考え方が示されています。水や食料だけでなく、簡易トイレ、保温、照明、衛生、情報収集、充電まで含めて準備します。

水・主食・毛布の目安

品目 1人分の目安 店舗・事務所での確認ポイント
飲料水 1日3リットル、3日で9リットル 人数分を一か所に積まず、運搬・配布しやすくする
主食 1日3食、3日で9食 調理用の水や火が不要な食品も組み合わせる
毛布・保温シート 1人1枚 待機場所の床や季節、空調停止を想定する
簡易トイレ・衛生用品 想定人数・回数から算定 ごみ袋、手袋、消毒、保管場所も含めて準備する
照明・情報・充電 必要台数を施設ごとに算定 懐中電灯、ラジオ、乾電池、携帯電話用電源を用意する

勤務者数ではなく「最大滞在人数」で考える

備蓄数は通常の正社員数だけで決めず、同じ時間帯に勤務する非正規従業員、来店客、取引先なども考慮します。ガイドラインでは、外部の帰宅困難者向けに、例えば10%程度を余分に備蓄することも検討事項として挙げられています。地域、業種、施設規模によって適切な人数は変わるため、自社のピーク時在館者数から計算しましょう。

買った日ではなく更新日を管理する

賞味期限、電池残量、医薬品や衛生用品の使用期限を台帳で管理し、日常利用しながら補充するローリングストックも検討します。停電時に防犯カメラや通信機器を維持する場合は、カメラだけでなく録画機、ルーター、回線終端装置を含めて必要な時間を確認します。詳しくは停電時の防犯リスクとUPS・蓄電池をご覧ください。

4. 安否確認は「複数手段」と待機中の運用まで決める

複数の方法で従業員の安否確認を行う事務所

安否確認システムを導入していても、連絡先が古い、誰が未回答者を確認するか決まっていない、停電時に管理画面へ入れない状態では十分に機能しません。電話の混雑や停電を想定し、複数の連絡手段と集約ルールを用意します。

安否確認は4つの対象に分ける

  • 施設内の従業員:所在、けが、服薬や移動支援の必要性を確認する
  • 外出・出張中の従業員:現在地、安全な待機先、会社または自宅との距離を確認する
  • 従業員の家族:本人が安心して待機できるよう、家族との連絡方法を周知する
  • 来所者:氏名・人数・連絡希望先を確認し、従業員に準じて案内する

固定・携帯電話、メール、SNS、災害用伝言ダイヤル171、web171など、異なる通信網を使う手段を組み合わせます。「無事です」だけでなく、現在地、けがの有無、待機場所、次回連絡時刻を返答項目として決めておくと、情報を集約しやすくなります。

待機中の入退室と責任者不在も想定する

通常とは異なる時間帯に人が残ると、警備の開始・解除、裏口の使用、来所者対応、備蓄庫の開錠などで混乱が起こりやすくなります。入退室を記録し、外出する場合の許可者、施錠する区画、警備会社やビル管理者への連絡方法を決めます。

体調悪化や不審者など、待機中に助けを求める場面も考えられます。非常通報設備の役割や設置場所は、店舗・事務所の非常通報ボタンの判断基準で詳しく解説しています。

災害時の入退室・通報・停電対策を確認しませんか

施設内待機では、備蓄だけでなく、出入口の管理、非常通報、防犯カメラ、機械警備、電源・通信を止めない運用も必要です。SATでは、現在の設備を確認し、災害時に見直したいポイントを現場に合わせて整理します。

店舗・事務所の設備について相談する

5. 分散帰宅・訓練・防犯設備までチェックリスト化する

備蓄配布と入退室管理を確認する事務所の防災訓練

「3日たったら全員帰宅」と機械的に決めるのではなく、行政や交通機関、周辺道路、火災などの情報を確認し、安全に帰宅できると判断してから開始します。居住方面や家庭事情を考慮して順序を決め、駅や道路へ人が集中しないよう時間を分けます。

帰宅開始後も所在を確認する

徒歩帰宅をさせる場合は、単独行動を避けるための班編成、地図、歩きやすい靴、携帯電話用電源などを確認します。帰宅した従業員から完了報告を受け、途中で連絡が取れなくなった場合の連絡先と判断者も決めておきます。

年1回以上の訓練で実際に試す

内閣府ガイドラインでは、施設内待機の手順を含む訓練を年1回以上実施し、結果を計画へ反映する考え方が示されています。机上確認だけでなく、備蓄品の搬出、安否確認への回答、非常用電源への切替え、出入口の管理まで動かしてみると、担当者不在や鍵・電源の問題を見つけやすくなります。

確認項目 平時に決める内容 訓練で確かめること
施設内待機 判断者、待機場所、来所者の案内 安全確認から人数集約までの時間
備蓄 対象人数、3日分の品目、保管・配布担当 停電・エレベーター停止時にも運べるか
安否確認 第一・第二手段、返答項目、未回答者の確認 連絡集中時に情報を集約できるか
分散帰宅 帰宅順、班、完了報告、帰宅を止める条件 方面別の誘導と連絡が機能するか
防犯・設備 入退室、非常通報、警備、予備電源・通信 停電時にも録画・検知・連絡を続けられるか

機械警備、防犯カメラ、センサーは役割が異なります。待機中と無人時間の両方を考えた組み合わせは、機械警備と防犯カメラの違いと選び方で確認できます。設備の追加や見直しを検討するときは、防犯設備の見積もり前チェックリストもご活用ください。

店舗・事務所の災害時運用を設備面から支えます

SATでは、出入口、防犯カメラ、機械警備、非常通報、電源・通信を確認し、施設内待機や停電時にも使いやすい設備構成を整理できます。既存設備を活用できるかも含めてご相談ください。

SATへ防災・防犯設備を相談する

6. まとめ

帰宅困難者対策は、従業員を単に会社へ留めることではありません。建物と周辺の安全を確認し、安全な待機場所、3日分の備蓄、複数の安否確認手段、来所者対応、分散帰宅の判断を一つの手順として準備します。

店舗・事務所では、通常と異なる時間帯に人が残るため、入退室、施錠、非常通報、防犯カメラ、機械警備、予備電源・通信も確認対象です。年1回以上の訓練で実際に動かし、見つかった課題を計画と設備へ反映しましょう。

帰宅困難者対策に関するよくある質問(Q&A)

Q1. 災害が起きたら、従業員は必ず3日間会社に待機させるのですか?

一律に3日間留めるという意味ではありません。まず建物と周辺の安全を確認し、行政・交通・道路などの情報を踏まえて判断します。建物が危険な場合は、施設内ではなく他の安全な場所へ移動します。

Q2. 備蓄は正社員の人数分だけでよいですか?

正社員だけでなく、同じ時間帯に勤務するパート・アルバイト・派遣社員、来所者なども考慮します。通常時の在籍人数ではなく、ピーク時の在館者数から必要量を検討してください。

Q3. 水と食料以外に優先したい備蓄は何ですか?

簡易トイレ、衛生用品、毛布や保温シート、照明、ラジオ、乾電池、救急用品、携帯電話用電源などがあります。施設の用途、季節、空調停止、要配慮者の有無に合わせて追加します。

Q4. 安否確認システムがあれば訓練は不要ですか?

必要です。連絡先の更新、ログイン方法、未回答者の確認、担当者不在時の代行、家族との連絡方法まで実際に試します。電話や通信障害を想定し、複数の手段を用意してください。

Q5. 待機中の防犯対策では何を確認すべきですか?

通常と異なる時間帯の出入口、警備の開始・解除、非常通報、来所者管理、備蓄庫の開錠、防犯カメラの録画、停電時の電源・通信を確認します。警備会社やビル管理者への連絡順も決めておきましょう。