
はじめに
介護・福祉施設は高齢者や障害者など、社会的に脆弱な立場にある人々が生活する場です。近年、不審者侵入事件や転倒事故などが全国で報告されており、防犯対策は「命と尊厳を守る」ための重要な取り組みとなっています。厚生労働省の通知を通じて、日常的対応と緊急時対応の両面から安全確保を求めています。
本記事では、職員ができる行動面の対策、防犯カメラを中心とした設備面の強化策、プライバシー配慮、補助金制度の活用までを体系的に整理します。
1. 介護施設が不審者に狙われる理由
2024年10月15日に発生した埼玉県鶴ヶ島市の老人ホーム殺人事件では、元職員が暗証番号を使って侵入し、89歳の女性2人を殺害するという痛ましい事件が発生しました。
この事件が示すように、介護施設は「元職員による内部情報の悪用」「人の出入りの多さ」「防犯意識の相対的な低さ」という要因から狙われやすい環境です。特に元職員は以下の「3つのアドバンテージ」を持っています:
| 要因 | 詳細 | 対策 |
|---|---|---|
| 内部構造の把握 | 防犯カメラの死角、職員の巡回ルート、非常口の位置を熟知 | 定期的なセキュリティルールの見直し、退職時のアクセス権限削除 |
| 入所者情報の把握 | 各入所者の部屋位置、身体状況、家族の面会パターンを知っている | プライバシー情報の厳格管理、情報アクセス権限の制限 |
| 職員行動パターンの熟知 | 夜勤の人員配置、緊急対応時の動線、休憩時間を把握 | 勤務パターンの定期的変更、多層的な警備体制 |
2. 厚労省が定める防犯対策
厚生労働省は2016年9月15日に発出した通知で、神奈川県相模原市の障害者支援施設での事件を受けて、「日常的対応」と「緊急時対応」の両面を重視した具体的な点検項目を示しています。
日常的対応の主要項目:
- 所内体制の整備: 防犯責任者の指定、職員の役割分担明確化、防犯講習・訓練の実施
- 来訪者管理: 入口・受付の明示、立入可能場所と禁止場所の区分け、来訪者への声かけ実践
- 地域との連携: 警察署、社会福祉協議会、民生委員等との日常的な連絡体制構築
- 施設設備対策: 警報装置・防犯カメラ・防犯ブザー等の導入、監視性の確保
緊急時対応の主要項目:
- 不審者情報への対応: 警察・自治体への情報提供、職員間の情報共有、警戒体制の構築
- 不審者侵入時の対応: 警察への即時通報、利用者の退避誘導、職員の協力体制確立
3. 職員ができる防犯対策
職員の行動は防犯の要です。厚労省ガイドラインに基づく具体的な取り組みを以下に示します:
| 行動 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 来客受付時の対応 | 「どこへ行かれますか?」「何かお手伝いしましょうか?」の声かけ実践 | 不審者侵入防止、施設内の状況把握 |
| 施設内巡回 | 定期的な見回り、職員の存在の可視化 | 犯罪抑止・早期発見 |
| 防犯訓練の実施 | 不審者対応シナリオ訓練、緊急時の「合言葉」設定 | 利用者・職員の安全確保 |
| 関係機関との連携 | 警察署、自治体との日常的な情報共有 | 地域パトロール協力、迅速な情報伝達 |
4. 設備的な防犯対策
防犯カメラの設置は法的義務ではありませんが、防犯対策として強く推奨されています。設備面の改善は「侵入ハードルを上げる」ことに直結します。
| 設備対策 | 詳細 | 効果 |
|---|---|---|
| 境界の明確化 | フェンス・門扉設置、出入口の限定 | 視覚的防犯性向上 |
| 入退室管理システム | ICカードリーダー式扉、暗証番号の定期変更 | 関係者識別強化、元職員の不正侵入防止 |
| 防犯カメラ | 死角なく配置、出入口・共有スペース中心 | 犯罪抑止・証拠確保・利用者見守り |
| 非常通報システム | ボタン一つで警察通報 | 迅速対応・被害最小化 |
5. 防犯カメラの役割と設置場所
防犯カメラは「侵入抑止」「事故記録」「利用者見守り」「トラブル防止」に多面的に活用できます。適切な設置場所の選定が重要です。
| 設置場所 | 主な目的 | 効果 |
|---|---|---|
| 入口・受付 | 不審者侵入防止、来訪者記録 | 無断外出防止、夜間管理強化 |
| 共有スペース(廊下・食堂・ロビー) | 利用者の見守り、職員の死角カバー | 体調急変・トラブル早期発見 |
| 駐車場・外周 | 外部からの侵入監視 | 夜間の安全確保、不審者早期発見 |
設置を避けるべき場所: 利用者の居室・個室、トイレ、浴室(プライバシー保護のため)
6. プライバシー配慮と運用ルール
防犯カメラ設置時のプライバシー配慮は必須です。以下の要件を満たす必要があります:
| 項目 | 内容 | 法的根拠・効果 |
|---|---|---|
| 事前説明と同意 | 利用者・家族・職員への設置目的説明と同意取得 | 信頼関係維持、トラブル防止 |
| 表示義務 | 監視カメラ作動中のステッカー・プレート掲示 | 法的要件遵守 |
| データ管理規則 | 保存期間設定(2週間〜1ヶ月)、自動削除、パスワード管理 | 個人情報保護、情報漏洩防止 |
| 閲覧権限管理 | 管理者限定の閲覧権限、定期的なパスワード変更 | 不正利用防止 |
7. 防犯カメラ活用例
導入事例では多方面で成果が報告されています:
| 活用例 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 転倒事故対応 | AI技術による動体検知・リアルタイム監視 | 迅速な救助・原因分析 |
| 無断外出防止 | 出入口監視・アラート通知 | 重大事故防止 |
| トラブル対応 | 映像による事実確認 | 公平な判断・環境改善 |
| 業務効率化 | 夜間巡回補助・職員研修活用 | スタッフ負担軽減 |
8. 補助金制度の活用
防犯カメラ導入には自治体の補助金制度を活用できます。以下の自治体で補助金制度が確認されています:
| 自治体 | 制度名 | 補助率 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 和歌山県 | 社会福祉施設等施設整備費補助金 | 4分の3(75%) | 障害福祉サービス事業所等の大規模修繕等 |
| 大阪府 | 社会福祉施設等整備費国庫補助金 | 4分の3(75%) | 防犯対策を含む施設整備 |
| 愛知県 | 社会福祉施設等施設整備費補助金 | 4分の3(75%) | 防犯対策強化整備 |
注意: 補助率や対象施設は自治体や年度により異なるため、申請前に各自治体への確認が必要です。
9. AI技術の導入と将来展望
近年、AI技術を活用した防犯システムの導入が進んでいます:
- 転倒検知AI: リアルタイムでの転倒事故検知と自動通報
- 異常検知システム: 通常と異なる行動パターンの自動検出
- 顔認証システム: 元職員や要注意人物の自動識別
ただし、導入にはプライバシー保護、コスト、職員の技術習得といった課題もあり、施設の規模や特性に応じた慎重な検討が必要です。
10. 現実的な課題と解決策
防犯対策の実施には以下の現実的な課題があります:
| 課題 | 現状 | 解決策 |
|---|---|---|
| コスト負担 | 防犯システム導入・維持費用 | 補助金活用、段階的導入 |
| 人員不足 | 介護業界の慢性的な人手不足 | AI・ICT活用による効率化 |
| 開放性との両立 | 地域に開かれた施設と安全確保の矛盾 | スマートエントリーシステム等の技術活用 |
| プライバシー配慮 | 見守りと個人の尊厳の両立 | 適切な運用規則策定、職員教育 |
FAQ
Q1. 介護施設に防犯カメラは必須ですか?
A1. 法的義務はありませんが、安全確保と犯罪抑止のため設置が強く推奨されています。
Q2. 補助金制度は利用できますか?
A2. 多くの自治体で導入費用の75%が補助されるケースがありますが、制度は年度により変動するため事前確認が必要です。
Q3. プライバシー侵害にならない設置方法は?
A3. 事前説明と同意取得、個室・浴室等への設置回避、適切なデータ管理が重要です。
まとめ
介護・福祉施設の防犯は「人的対策」「設備的対策」「行政ガイドライン遵守」「地域協力」の四位一体で成り立ちます。2024年の鶴ヶ島市事件のような「元職員による内部犯行」という新たなリスクも明らかになった今、従来の対策を見直し、AI技術や補助金制度を活用した総合的な防犯体制の構築が急務です。
最終的には「人の目と心」が安全を守る最大の力であることを忘れず、技術と人的対応の最適な組み合わせを追求することが重要です。
この記事の制作者

粂井 友和
システム警備を提供して20年以上、お悩みを解決したお客様5,000件以上のSATで責任者を務めています。
防犯カメラや防犯センサーなどを活用した防犯システムを、様々な状況に適した形でご提案します。
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